街角の花屋さんに足を止めて
ある日、花を買った
仕事帰り、地下鉄までの道すがら前を通りかかるお花屋さん。 店先にはいつもぎっしりと花が並んでいます。四季折々、色とりどり。はっとするくらいいつも鮮やか。季節の為所かな。その日はやけに心惹かれてちょっと足を止めてみた。スーパーやめてたまには花でも買って行こうか。今日は、金曜日だし。
混んだ車内、潰さないように大切に持ち帰って、部屋に飾ってみた。突然部屋がぱっと華やいだ。生き返ったみたい。
いい香りがした。
育ててみたくなった
花瓶の花が終わった次の週の金曜日、今度はふと店先に並んだ小さな花鉢と目が合った。とても鮮やかなオレンジ色・・・。部屋で育ててみたくなった。
―とはいえ、置く場所も、お水のあげ方も分からない。会計をすませながら店員さんになにげなく聞いてみる。お水はいつあげたらいいですか? ついでに肥料も買ってみた。これって、どうあげたらいいですか?
ちょっとおしゃべり。
部屋に連れて帰った。東に開け放ったベランダに置いた。
また翌週も。
また、翌週も。
気がついたら3週間。鉢花3つ。お花屋さんとも顔見知りになっちゃった。
それが始まり―
〈 Welcome to the Garden of Beniko Shimada 〉

3つの鉢花から始まる
あなたの新しい物語
1. 初級編 花の色
あなたがある日買って来た花の色、何色だったかあなたは覚えていますか? カラーセラピーという心理的身体的色彩療法があります。あなたが何気なく惹かれて買って帰ったその花の色、じつはあなたの心が欲している色なのかもしれないのです。
辛いとき、悲しいとき、元気がないとき、ストレスでくたくたなとき、なにも意を決してわざわざカウンセラーから助言を貰わなくったって、回復しようとするあなたの身体は、自分で今あなたに欠乏しているものをよく知っています。今のあなたに欠乏して、今のあなたが求めている力。
ある時なんだか急に緑の野菜が美味しそうに見えてしばらく食べ続けたり、黄色い果物がすごく欲しくなったり、赤だったり・・・。赤、ピンク、ベリー。オレンジ、黄色、ブルー、パープル。白、やわらかなパステルカラー。そしてグリーン。それらの色の囁きは、例えば、優しさ、ぬくもり、希望、気力、調和、精神の落ち着き、休息、安らぎ・・・。とても穏やかで、素直で、誠実。
あなたの好きな色系統。あなたを元気にしてくれる。あなたをとても幸せな気分にしてくれる。そんな色。こどもの頃大好きだった色。或いはなんだかこの頃妙に気になる色。色の処方箋。新しい物語には、テーマが必要です。あなたのテーマを決めましょう。色調から。
あなたを癒やして満たす色系統で揃えてみる。
ベランダをデザインする。まずは色から。

5つの鉢花が語るあなたの
ライフスタイル物語
2. 中級編 スタイル
あなたの好きなことは何ですか?疲れたときに活力を取り戻してくれること。あなたに安らぎを与えてくれること。リラックスさせてくれること。絵を描く、本を読む、お酒を飲む・・・? 色々あるけど今の空間を離れて旅に出てみるというのはどうですか?ここでは、大きな荷物を持ち歩いたり、ホテルを探したり、迷子になったり、食べ過ぎたり、飲み過ぎたりもない、二日酔いフリー、言葉の心配もまったくフリーなヨーロッパ旅行をしてみましょうか。
ヨーロッパの人たちって不思議だな。国がそれぞれあんなに隣接しているのに、その国々でまるで違うそれぞれの文化、それぞれの考え方をしっかりと持っているんだから。考え方が違えば生活空間の演出も違う。憧れのライフスタイルをベランダに鉢花で表現してみるのはどうですか? 簡単に。ー 例えば、こんなかんじ

□ Parisスタイル ‐簡単にまとめる‐
一点豪華主義
大きめの真っ赤なゼラニウム、ベゴニア。或いはブルーのアジサイ・・・。 ちょっと個性派の大人な花をひとつ中心に、その脇役を選んでいきます。花の咲いている時期の長いミニバラ、ガーベラ、マーガレット、お手軽活用アイテムはいつでもお花屋さんに並んでいます。
春は、色彩豊かなチューリップ、香りもあるマリーゴールド、真っ白なすずらん、冬は、スイセン、寒さに強いカランコエもオススメ・・・。名前をよく知っている花、名前は知らないけれどよくあちこちで見る花・・・。心地よいと感じる色と、色の組み合わせで気ままに選ぶ。並べる。
カフェオレを入れたらParis気分。バゲットに美味しいバターとコンフィチュールでお手軽にParisです!
テクニック
○かわいいパステルカラーというよりは、主張があるはっきりとした色のリベラルで大人なベランダをめざすのがParis調。
○まず大ぶりな花を一点決めて、それを主役にややひかえめに愛らしい鉢花を合わせていくと、意外なほど簡単にしっくりとまとまります。
ワンランクアップ・テク
◎アイビーが似合います。おしゃれに使ってみましょう。色の濃淡、葉の形、アイビーには様々な種類があって、それぞれ表情が豊かです。葉物を加えるとそれだけでぐっと雰囲気がでます。ハーブでも似合うはず。おしゃれに仕上げましょう。
◎それでもなんとなく冴えないなぁと感じたら、赤を効かすとぐっと垢抜ける。ストロベリーキャンドル、キャットテール・・・。また、ベリーなどの季節の実物も手軽に手に入って使い勝手がいいアイテムです。春夏にはワイルドストロベリー、クリスマスのシーズンに向かってはクランベリーが出回ります。ブルーベリーだってきっと素敵。大人かわいく使ってみる。
plus one ❢
大きな鉢にハーブだけを集めて植え込んだら所変わって南フランス、プロバンス。どっしりとした大きなテラコッタに、印象派の絵の様にハーブを自由に寄せ植えして、日射しが集まる場所におきましょう。

□Italian Garden ‐ビビッドな黄色はどうでしょう‐
光溢れるフレッシュな花をひとつ所に集める
ビオラ、パンジー、マリーゴールド、カラー、スイセン、チューリップ、キャロライナジャスミン、マーガレットコスモス、エニシダ、ミモザ、レモンの木・・・。黄色をイメージさせる植物はたくさんあります。
休日の朝、生まれたての風と光。朝食はシンプルにエスプレッソコーヒー、ビターチョコレートと苺。そして夕暮れは冷やした白ワインをひとりでゆっくり静かに飲んで過ごすそんな夏の一日をイメージ。
イタリアは、ビビッドなイエローでガツンとキメる!
テクニック
○鉢はナチュラルにテラコッタ。自由に。気ままに。
○ここではとくに花だけではなくて、葉の色調、形といった、葉のみせる表情もがっちり意識してデザインしてみましょう。黄色の花には春の花が多いと言われていますが、グラジオラス、サンダーソニア、クラスペディアなどは夏の強い日射しに向かって咲き誇る花、誰もが知るヒマワリは、その代表格です。どれも名前を聞いただけでなんだかすごく元気になる夏の鮮やかな黄色。また、バラやカモミールなどのハーブには、四季を通して花の時期が長いものがたくさんあります。上手に使って、明るく、楽しく、華やかに。
ワンランクアップ・テク
◎色調、形、葉の与える印象を意識してデザインします。黄色には、カラーなど、葉に斑が入ったおしゃれな植物も多い。低く仕立てた常緑の木を一本加えたら、たちまちそこに高級感が出ます。キラキラと光る葉の煌めきに爽やかな光と風を感じることでしょう。
◎ハーブは勿論、サボテンなどユニークな出で立ちの植物を足しても、楽しいものが出来そうです。明るく、自由に、そしてちょっぴり小粋に。そのへんが、ゴールです。
plus one ❢
多肉植物をたくさん使って南国風にユニークな空間を創ってみるのもきっと楽しい。
*多肉植物の代表格アロエ
これはひとつ持っていると便利です。擦り傷、火傷、肌荒れ、様々なシーンで応急処置に役立ってくれることでしょう。
他にも旅行ガイドブックを開いてあなたの好きな国や都市を自由に表現してみてはどうでしょう。カラフルで個性溢れるハッピーな空間を、四季折々。ただし、観葉植物や南国の花などベランダでは難しい植物もありますから注意です。

“カラーセラピー”を取り入れた小さなベランダガーデンのすすめ
3. あなたがふっと立ち止まって息をつける場所
そこにルールはありません。出会いとインスピレーションで描くだけ。あなたが心地よいと感じる色合いをテーマに選んだら、あとは自由に鉢花を展開していく。インテリアやワードローブと違って、花は思いつきで変えられます。スペースに合わせて、足す。引く。
成功のコツ
*最初からあれこれと植物を増やさないのが安全です。風通しが悪くなると、植物たちの病気の原因になるからです。
*花は終わったらすぐに切るようにしてください。花は皆、きれい好き、と覚えておいて下さい。
*有機肥料などは保管場所に注意します。温度が高くなったり、虫が入り込む心配がないように管理します。
* 環境にも依りますが、鉢の受け皿に水がずっと溜まったまま、は良くありません。
*ご存知のとおり、植物には、季節を始め、日差しが大好きな子、反対に苦手な子、暑さが得意な子、寒さに強い子、四季咲き、一年草、宿根草・・・。様々な性質がありますから、選んだ花や葉について、それぞれの育つ環境を知っておくと長く付き合えます。
*植物には香りなどの特徴があります。ペットがいる場合は、選んだ花がペットと相性がいいか、念の為に確かめておくと安心です。
枯れたかな、と思っても、外に出してしばらく雨にあてると生き返ったりする。ちょっと嬉しくなる。
セキュリティ
例えばパステルカラーが賑やかに咲き誇っているベランダや窓辺 は、ある意味花柄のカーテンがひらひら風に揺れているようなもの。外からどう見えているか、気を配ることもとても大切です。
ご近所
隣接する部屋をはじめ、近所に迷惑をかけていないか少し注意しましょう。都心など特に住宅事情がありますから、トラブルに繋がらない様に、やはりここでもこじんまりとまとめるのが安全です。
分からないこと、困ったこと、お花屋さんに聞けば何でも教えてくれるはず。ご参考に。
もしも十分な日射しと広い
ベランダ、庭が手に入ったら
4. 上級編 調和(ハーモニー)
ガーデニングと言えばイギリスを思い浮かべる人は多いはず。”庭仕事が大好きなイギリス人”たち。でも彼らはしつらえ感がどうもあまり好きでないらしい。ヨーロッパの王宮庭園が見事な幾何学模様に造形されているのに対して、イギリス人はあくまで「自然派」です。
影響をたっぷり受けて、じつは私もしつらえて庭をつくるのがあまり好きではない。自然がいい。すべてにおいて。

□English Garden 調 ‐イギリス風は上級編です‐
◉イングリッシュローズ
イングリッシュガーデンで主役に躍り出るのは、なんといっても薔薇です。好きな薔薇を選んで、それを中心に、まわりに彩り鮮やかな脇役をあしらってみましょうか。イングリッシュラベンダー、クリスマスローズ、キャットミント、スカビオサ、ルピナス、デルフィニウム、ヒヤシンスなどは、イングリッシュガーデンによく登場する面々です。また、薔薇は造形的なものでなく、お椀型に咲く野生に近い形のものがイギリス風です。
*手入れが難しいイメージをもつ薔薇。薔薇のトラブルといえばまずアブラムシ。その為に薔薇を諦める人も多いのでは?薔薇に十分な日射しが絶対条件であることは良く知られますが、雨がよく降るこの日本では、風通しも同等に大事です。衛生的な環境で育てると失敗も少ないと思います。
また、殺虫剤を使わないうちの薔薇には当然アブラムシがつく年もありますが、困っているとてんとう虫が飛んできてせっせと食べて片づけて行きます。だから葉の上に小さな赤い点を見つけるととっても嬉しくなる。天使の様です。
テクニック
○濃い紫、ブルー、ピンク、はっきりした色の背の高い花を上手に加えると、けっこうそれだけで “それ” らしくなる。
○クレマチス、ハニーサックル、蔓日々草・・・。蔓の植物を加えると、更により一層 “それ” らしくなる。蔓薔薇はちょっぴりハードル上がりますが挑戦してみても素敵です。色の効果を意識して、調和を大切に。
○スティパやコニファーもよく登場する脇役のひとつです。
ワンランクアップ・テク
◎イギリス人は殺虫剤をあまり使いません。「庭は、鳥や、虫が入って完成する景色だから」です。可愛らしい色の野鳥たち、そこには動物だって自由に出入りします。リス、ハリネズミ、もぐら、ピーターラビット・・・。
ある時ふつーに薔薇に殺虫剤を撒いたら、好きな人にさっと顔をしかめられた。その昔私が一瞬で殺虫剤を嫌いになったいきさつです。
◎イングリッシュガーデン。一見ただ思いつきで植えただけかと思う自由さ、しかしその実、虫の生体や、相性、季節のサイクルまで計算しているんだから、本当に素敵だと思います。とっても哲学、心理学。 奥深く、味わい深い世界です。
◎色彩はイングリッシュガーデンの大きなテーマです。白薔薇、ガーデニア、白百合、アイリス、ヒヤシンス・・・。白い花たちだけでつくるホワイトガーデンは有名です。参考に。
plus one ❢
大きめのテラコッタにハーブや野菜の苗を寄せ集めてミニ菜園を創ってみましょうか。ベランダで菜園にはどうしても限界があるけれど、パセリ、ラディッシュ、ベビーキャロット、クレソン、ルッコラ、ミニトマト・・・。呪文みたいね :)実はけっこういろいろできます。風が均等に行き渡る四角いコンテナーがオススメです。
plus one ❢
しかし、そのイギリス人が高く評価するのが日本庭園です。西洋の庭で、藤の花や、菖蒲、桜や椿などを見たことはありませんか?世界の庭師の憧れと言っても過言でない日本の庭。ボンサイなどを使って挑戦してみるのもクール。あなたのスタイルは何ですか?
6. 海亀が教えてくれたこと
夜、眠れずおもむろに起き出してテレビをつけた。 ETVでドキュメンタリーをやっていた。 ふと、手が止まった。
夜中の番組ということだから多分これ、再放送だ。 NHKは番組をよく再放送するけどこれは本当にいいことだ。 ゴールデンに放送されても仕事で遅く帰ればせっかくのその番組に出会うことは出来ない。 それに、エコの観点からも理にかなっているというものだ。 人にも優しい、なにもそんなに目くじら立ててあくせく新番組作らなくっても、良い番組は大いに再放送するべきだ。 ーそれで卵から孵化したウミガメの赤ちゃんが、一心に街の明かりに向かって這っていく海辺の都市の映像を見たんだ。
ウミガメは、満月が放つ光に向かって這っていく習性があるんだそうだ。 砂の上に産みつけられた卵は、そうすることで月明かりの照る母なる海に帰っていける。ところがその赤ちゃんたちは、月ではなくて、街のネオンに惑わされて、海とは真逆の方へ這っていってしまうのだ。 月明かりよりもぎらぎらと明るい都市化が進んだ街の雑踏に一斉に向かって。
うだるような白昼の熱を含んだアスファルトの上を、一途に、一生懸命に這う。 やがて路上に捨てられたプラスチック容器やカップに誤って入ってしまって藻掻いたり、下水口に落ちて這い上がろうとして身動きができなくなったりしている。 車道になど出たらもう、横切れるわけもない。 容赦なく次々と行き交う車にひかれる。 コンクリートの車道の上で、ぐちゃっぐちゃっと音をたてて潰される。 見ていて胸が潰れる思いがした。 ほんとうに痛ましい映像だった。 とても悲しくなった。 ようやく生まれてきた赤ちゃんたちの、うるうると透明で純粋な眼差し。 毒々しい都市のネオン。 ひっきりなしに行き交う車の強いヘッドライト。
以前なにかの番組でこういう話を聞いて私は知っていた。 それは、どこの国だったかな…。 砂浜で産まれたばかりのウミガメの赤ちゃんたちは、月明かりを目指して海へ砂浜を這っていく。 ところが現代社会では、都市の明かりが月よりはるかに明るくて、ウミガメの赤ちゃんたちは惑わされて月とは反対側へ這っていってしまう。 そして、海に辿り着けずに死んでしまう。 だから、その国の、その海辺の町では、街灯などにカバーをつけて、ウミガメの赤ちゃんが間違えて海と反対へ這っていかないようにしてあげるんだって….。ふ〜ん、とほっこりしたのを覚えている。
あれは、どこの国だったかな….。
昨夜の映像はまるで地獄絵のようだった。 そしてむしろあれが現実なんだ、と思った。 あの光景が当たり前になって、見て平然としていられるようになったら、もう人間はおしまいだ….。
ウミガメの赤ちゃん。 なんの罪もない、生まれたばかりの赤ちゃんたち。 誘われるまま、一生懸命にただ前に進む。 だけどふとこうも思ったんだ。
もしかして、あれは私たちだということはないだろうか。
そして、ちょっと不安になった。 私の見ているものは、本当に、本当に、月の明かりだろうか。 私の進む先に、大いなる海は本当にあるだろうか…。路上のごみに足を取られ、下水口に落ちて、車道と知らず、まだ懸命に前へ這いつくばうのだろうか。 都市の煌々とまばゆい光の渦のなか。
自然に戻りたい。